すむむ。コミュニティ
住まい探しのコミュニティ・プラットホーム。
Photo / Satoshi Nagare
Text / Hisashi Ikai
Edit /Tami Okano
Photo / Satoshi Nagare
Text / Hisashi Ikai
Edit /Tami Okano
オリジナル家具の製造やインテリアの設計・施工に携わる、menthaの渋谷南人さん。仕事柄、これまで多くのリノベーションに関わってきた知識を活かし、6年前に購入した築48年のヴィンテージマンションを大変身させました。なかでも工夫を重ねたのがキッチン周り。窓の外に広がる風景にまで意識を及ぼし、明るく使い勝手の良い空間に変えた渋谷さんの家づくりとは。
1987年東京都生まれ。セレクトショップの雑貨&家具バイヤーを経て、2016年にtoolboxに入社。商品開発や内装設計・施工を担当する。2024年に独立し、menthaを設立。現在は、オーダー家具のデザイン・製作を中心に、店舗やオフィスの内装や、住宅のリノベーションを設計施工で行う。
https://mentha.jp/
配管用にふかした厚さ180mmの壁はアルミサッシの框部分がすっぽりと隠れるように造作されており、額縁のような眺めを確保。壁の色は渋谷さんが自身で調色。少しページュがかった色味に仕上げている。
掃き出し窓をアレンジしたキッチンの窓。配管などを通すために設けた壁の厚みを生かし、コーヒーミルやティーポットなどのキッチン用品置き場に。切り取られた窓がフレームのようになって、オブジェを際立たせる。
「将来家を持つなら、絶対に最上階の角部屋」。そう心に決めて、ずっと家探しをしていたという渋谷南人さん。根気良く物件をめぐり、吉祥寺の閑静な住宅街に立つ、6階建のマンションと出合った。
「新婚旅行でスイスを訪れたとき、湖畔に佇むホテルのバルコニーから見た景色がずっと記憶のなかに残っていたんです。それまでインテリアや家具の仕事を通じて、室内のデザインに神経を集中させていましたが、快適な空間を作るには、家の外に広がる景色も大切なんだと実感。そこから、家を買うなら窓の外に遮るものがない場所=最上階&角部屋と決めていたんです」
南向きのリビングは、当初小さな2部屋に分かれていたが、間仕切り壁などを取り払ってみると、横一面に大きな開口が現れ、明るく広々、印象が大きく変わった。しかし、ここで渋谷さんが気になったのが、その開口部の古いアルミサッシの「時代感のある質感」だ。
「部屋の内部は手を加えられても、サッシは共用部になるので勝手に交換できません。そこで、窓の框(かまち)部分をふかした壁で隠し、さらに室内側にフランスのアンティークのガラス戸を設置。二重窓にすることで既存のサッシの枠が見えなくなり、窓越しの景色がさらに映えるようになりました」
窓に近い位置にキッチンを移動させ、屋外の光や風を感じながら心地よく調理できる環境を整えた。キッチンカウンターは作業のしやすさを考慮し、玄関ドアから搬入できる最大サイズ、2700mm幅の天板に。
造り付けの棚(左)はキッチンと同じオーク材。奥行きを調整することで内部に換気ダクトのパイプを通し、見栄えをすっきりと収めている。手前に見える作業台カウンターは、渋谷さんが工房の端材で製作したもの。
リビング・ダイニング、そしてキッチンがひと続きの一室空間にあって、天井照明は目的に応じて、ペンダント、スポット、ダウンライトと付け分けた。日が暮れて照明を点灯すると、異なるタイプの光が空間に立体感を生み出す。
リビングの一角には、渋谷さんの書斎も。ハーマンミラーの中古のテーブルの脚金物だけ利用し天板は無垢材に変更。壁にはアメリカの工業用の可動棚パーツで棚を設けた。グレーの床はオフィスなどでよく用いられるマーモリウム。
夫婦二人揃って料理好きというだけに、キッチン周りのデザインには渋谷さんこだわりがたっぷりと詰まっている。
「元のキッチンは入り口側の壁に面していたのですが、妻から『窓から外の景色を見ながら炊事がしたい』と言われまして、窓際にキッチンカウンターを大移動させています。採光に関する法規を細かく計算をしながら、元は掃き出し窓だったものを腰窓に変更。ふかした壁の内部に排水や配管を通しています」
リビング・ダイニングと一体、かつフルオープンのキッチンだが、渋谷さんの細やかな工夫のおかげで見た目はすっきり。クックトップ横の食器棚&パントリーは、一つひとつの棚の高さと奥行きを丁寧に計算。内部に換気扇ダクトを隠したり、イタリアのベルタゾーニ社の大型オーブンを目線の高さに設置し、使い勝手を良くしたりするなど、「部屋作りで一番苦心したのはキッチン」と言うほどの力作だ。
着物のスタイリストをしている妻の仕事部屋。サッシが入っている窓枠に細かく棧が入った繁障子を合わせて、穏やかでエレガントな雰囲気に。モダンなリビングとのコントラストも目を引く。
妻の仕事部屋の一角。デスク背面には、和の小物や人形、うつわなどを収納するアンティークのショーケースが置かれている。ガラス戸に、障子越しのやさしい光が映り込む。
リビングの入り口には、イギリスのアンティークのドアを設置。写真中央、トイレの扉も、ルーバー付きのものに変更した。「建具を変えるだけで空間の印象をガラリと変えられる」と渋谷さん。廊下の壁は、左官でゆるやかなカーブを描いた。
機能的なシューズボックスと日常使いのバッグをかけておくフックを設置した玄関周り。フック上にもスチールのワイヤーラックを付けるなど、限られたスペースを効率良く使っている。
玄関脇の小部屋は、元の構造を生かしつつ、着物スタイリストをしている妻のための仕事場に。サッシ窓にピッタリと合うヴィンテージの障子を組み込むことで、和室のようなしつらえに整えている。このように、フルスケルトンにするのではなく、使える既存の仕様そのままに残したことで、わずか1ヶ月半という短期間で設計から工事までを終え、費用を最小限に抑えたというのもさすがだ。
「住み始めた当初は夫婦2人暮らしでしたが、子供も生まれ、今年5歳になりました。将来的には子供部屋もつくろうと思っていますし、僕の書斎スペースも拡張したい。細々と手を加えていきたいところを含め、やりたいことは盛りだくさん。そう考えると、この家はまだ成長途中なのかもしれません」
部屋のそこかしこに、アートやオブジェが飾られている。セレクトには特別なルールは設けていないという渋谷さん。リビングの壁には、額装したイラストとヴィンテージの小さなおもちゃ。ウォールラックは目線の高さに合わせて設置している。
キッチン脇の南側。バルコニーへと続く窓に備え付けたフランスのヴィンテージ窓。「グレモン錠」と呼ばれる棒状の金具を軸に、左右両側に開く仕様になっている。