すむむ。コミュニティ
住まい探しのコミュニティ・プラットホーム。
建築デザインユニットを組み、公私共にパートナーの新井里志さんと中富慶さん。4年前に築50年のマンションを自分たちでフルリノベーションし、住まい兼仕事場としています。1日を通して自然光が入り、風が抜ける気持ちのいい空間は、部屋で区切るのではなく、すべてのスペースが緩くつながっているワンルーム。自分たちにとっての心地よさを突き詰めていったらこうなったという自邸で、住まいのデザインと住み替えについて聞きました。
新井里志と中富慶による建築デザインユニット。2014年設立。建築、インテリア、家具やプロダクトなど、建築的な視点を軸に、イメージする場所をかたちにするためのあらゆるデザインを行う。 主なプロジェクトに、Wieden+Kennedy Tokyoオフィス、(NO) RAISIN SANDWICH グランスタ東京、武蔵野デーリー CRAFT MILK STANDなど。
JRの駅から徒歩15分ほどの閑静な住宅街。少し高台にある築50年のマンションの最上階、95㎡プラス屋外バルコニー25㎡の1室を数年前に購入し、自分たちの設計でフルリノベーションした〈Kii〉の2人。玄関を開けると右にバスルーム。廊下を進んで左へ折れると、ベランダに出られる窓までドーンと視界が広がる。仕切り壁がなく、構造の柱や収納や本棚などがスペースを緩やかに区切っているだけの、言ってみればワンルームなのだ。
「以前はリビングや寝室や和室に分かれた典型的な住宅でしたが、構造以外のすべての壁と天井を取り払いました。マンションの共用階段とエレベータースペースを取り囲んだコの字型の平面なので、壁がなくてもなんとなくスペースが分かれ、奥が見えないようになっています。壁で仕切るのではなく、家具を置くことで寝る場所、食べる場所、仕事をする場所を作っていきました」(中富)
「僕たちはこの家の中で2人だけで仕事をし、生活しています。だから食べることと働くことが地続きであり、リビング、オフィス、ダイニング、キッチンという分け目がないんですね。仕事中にお腹がすいたらキッチンでさっと何か作り、カウンターで食事を取りながら仕事の続きをすることもあるし、天気のいい日は窓際に座ってパソコンを開くこともあります」(新井)
掃き出し窓から出られるバルコニー。天気が良ければ富士山が遠くに見えることも。既存の床にウッドデッキを敷き、植栽を置いた。柵も自分たちで設計し直した。日当たりは最高。
奥の寝室へと繋がる部分も扉をつけず、収納と本棚に。本棚の下は“縁側”と呼ばれ、ここに腰掛けて本を読むことも。コンクリート打ち放しの壁には施工時のメモなどがそのまま残り、時間の蓄積を感じさせる。
キッチンカウンターはモルタルにコンクレタールを塗った仕上げ。アーチ状の出入り口をつけた壁の四角い線の部分にはテレビが格納されている。その裏は天井まで収納で、エアコンを取り付けて丸い吹き出し口を天井の際に付けた。
ダイニングテーブルのソファーから棚は、今のところ花とグリーンのスペース。場の使い方を住みながら変えていく融通性も居心地の良さのポイント。天井は、下地材の「木毛(もくもう)セメント板」をそのまま露出させている。
以前の住まいはこの部屋の半分ほどの広さしかなく、仕事の依頼が増えるにしたがって手狭になり、転居を考えた。その際、徹底して検討したのが「場所選び」だったと2人は振り返る。
「“場所探し”で、家のデザインの半分以上は終わったと言ってもいいぐらい重要です。僕らは2人とも田舎育ちなので、大きな空が見えたり、家の中を歩き回ったりできるのが当たり前の環境でした。そういう住まい方を東京で叶える場所を探し尽くしました」(新井)
「この辺りは坂が多く、土地に高低差があり、マンションの前の道を挟んで反対側は高層の建物が建てられない地区になっているおかげでバルコニーからの眺望がひらけています。3方向に窓があって風が抜けるし、自然光も入ってくる。1日の大半を家の中で過ごす私たちにとって、時間の移り変わりや天気や季節を感じられる空間に住みたいという願いは譲れないものでした。その条件にバッチリ合ったのがこの部屋だったのです」(中富)
新井里志さん。窓際のスペースには、2人が以前に設計したオフィスのためのスチール製キャスター付きベンチを。サイドテーブルにもなるし、強度もあり移動も可能。
中富慶さん。ダイニングテーブルは、左官職人と一緒に自作したテラゾーの天板。「ここにピンク色のものを何か置きたいね」という2人の会話から生まれた。こんなテーブル、どこにも売っていない。だからこそ2人らしい住まいになる。
マンションの場合、その部屋の中だけで暮らしが完結するイメージがあるが、新井さんも中冨さんも「街の中に自分たちが住んでいるという感覚を大事にしたかった」と続ける。室内の植物と、ベランダの植栽、そして街のグリーンがレイヤーとなり、内外の境が曖昧で自由な暮らしを望んだ。
訪れる友人たちもカウンターに陣取ってグラスを傾けたり、ダイニングテーブルでじっくり話し込んだり、床にじかに座ってストレッチしたり、思い思いに過ごすという。光と風が入るという、2人にとっての最優先事項を生かした空間は、住人にも来客にとっても自由度の高い居心地の良さがある。
壁付けのシンプルなデスクにエルワン・ブルレックがデザインしたワークチェア。壁際の一段下がった部分にコンセントがあり、コードなどが隠れるようになっている。日中は自然光だけで十分明るく、照明をつけることはほとんどないという。
本棚の裏に寝室。ここも扉をつけないことで空間に開放感が生まれ、窓からの光が届く。左官の塗り跡を残したグレーの壁の裏はすべて天井までの収納になっている。
バスルームの引き戸にデンマークのテキスタイルメーカー、クヴァドラ社のファブリックを張った。目に楽しく、吸音性もある。洗面台を使う人にとっても鏡の中の背景に彩りを添えてくれる。実はソファの張り地の余り布でもある。
透け感のあるブルーのカーテン越しに光がたっぷりと差し込む。窓ガラスの敷居に沿ってLEDランプが埋めてあり、夜に明かりをつけると空間がふわっと光に包まれる感じに。
住んでいく間に、その人らしさがだんだんにじみ出てくるような家は素敵だと思います。散歩や旅の途中で好きなものを見つけて持ち帰り、飾る。好きなものに囲まれていれば、だんだんとその人らしい空間になると思います
内装が出来上がってから、『ここに何かピンク色のものが欲しいね』という話になり、左官屋さんに手伝ってもらいながら顔料を混ぜたコンクリートを流し込んで、ダイニングテーブル用のテラゾー(人工大理石)天板を作りました。絵を描くように空間を作り、ないものは自分たちで制作する。その結果、自分たちらしい家になったのかなと思います
好きなものに囲まれて暮らすこと!
ミニマルな暮らしにしなきゃ、などと考えて無理する必要はまったくない。そんなことよりも自分は何が好きなのか、何が心地いいと思うのかを日頃からはっきりさせておいたほうがいいですね
マンションだからといって、間取り図だけで検討するのは危険。周辺環境の特徴を見極めるのが大事です。時間帯を変えて周りの道を何度も歩いて、立地を確かめることをお勧めします
自分たちでコントロールしきれない給排水や空調のメンテナンスが行われているかどうか、調べたほうがいい。賃貸だと難しいかもしれませんが、購入ならチェックするべきです
どんな暮らしをするのか、家族は増えるのか減るのか、気分を変えたいだけなのか、街が好きなのか。それによって自ずと場所が決まってくると思います。要は自分に向き合うということです
自分の持ち物の全体量を知っておくのも大事。それがすべて収まりきる場所なのかどうかも、住み替え時の重要ポイントです。その際に、本当に残すべきものなのか、捨てても構わないのか自問自答することになるはず。結局は自分自身を知ることが肝心なんですよね
まさに自分たちがここを買い、フルリノベーションした経験そのものです。いつもはクライアントに課している“暮らしに向き合う”ということを僕たちも体験しました。僕たちは建築家なので実験的な設計もしていて、生活しながら住み心地を確かめている部分もあります。家具や置くものが足されるごとに空間の質が変わっていくことに気づかされました
住み替えてよかったことは、体調がよくなったこと! 以前の家は狭くてたくさんのものに囲まれ、ストレスを感じる生活でしたが、光も風も通るこの部屋でお日様の動きに合わせた暮らしをするようになったら、夜はよく眠れるようになり、体の不調が明らかに減りました