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プロに聞く_Vol.03

〈一級建築士事務所knof/菊嶋かおり・永澤一輝〉
住まいのデザインと住み替えのコツ

Photo / Mie Morimoto
Text / Mari Matsubara
Edit/Tami Okano

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Photo / Mie Morimoto
Text / Mari Matsubara
Edit/Tami Okano

かつては筏に組んだ木材の運搬に使われた運河が今も流れる江東区木場。建築家の菊嶋かおりさん、永澤一輝さん夫婦の住まいは、その運河沿いにあるマンションの一室。2人が主宰する「knof」の設計でフルリノベーションし、住宅兼オフィスとして使っています。川沿いの暮らしの心地よさを最優先に、子育てをしながらの職住一体型のインテリアをどのように実現したのか。建築家ならではの視点と住み手としての思いを聞きました。

PROFILE 菊嶋かおり、永澤一輝

菊嶋かおりは1985年山梨県生まれ。京都工芸繊維大学卒業。永澤一輝は84年岐阜県生まれ。同大学院修士課程修了。両名で2016年に一級建築士事務所knofを設立。個人住宅のほか商業施設、保育園などの新築・リノベーションを手がける。代表作に「枯朽」「100本のスプーンTACHIKAWA」など。小学1年生の娘、1歳半の息子との4人暮らし。

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横7mの建具は鯨絵のキャンバス!
職と住が溶けあう運河沿いの家。

築40年ほどのマンションの6階。部屋の広さは約77㎡で、もともとの間取りはいわゆるファミリータイプの4LDKだった。リノベーションをするにあたっては、各室を隔てていた壁をすべて取り払い、ワンルームにすることからスタート。仕上げ材を剥がし、コンクリートの躯体をあえてそのまま残すと、広々とした空間が生まれた。

玄関を入るとまず目に入るのがオープンキッチンだ。食器などを納めたスチールの吊り棚の下に、淡いグリーンの十和田石の天板カウンターが横に伸びる。カウンターにはハイスツールが添えられ、まるでおしゃれな隠れ家バーのよう。そこから左手に続くダイニングとリビングには、鯨の絵が描かれた9枚の建具が連続している。

「最初から事務所兼自宅にすることを考えていて、生活感を極力なくしたかった。冷蔵庫などは全てカウンターの下に入れ込んでいます。ここは私たちの仕事場であり生活の場でもありますが、その境界を明確に区切るのではなく、両者の比率を自由に変えられるようなワンルームにしました」(菊嶋)

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9枚の建具収納の先に広がる、タイル敷きのリビングの一角。集合住宅としては稀な3面採光もこの部屋の魅力のひとつ。1日を通じて多様な光が差し込み、風が通り抜ける。

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写真正面のFRP波板パネルは、knofが内装設計したカフェのためにつくられたもので、閉店に伴い引き継いだ。小澤真弓さん原画のカッティングシートを波板に貼り込んだ。ビビッドな色が室内のアクセントに。

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タイル敷きの部屋のコーナーから、建具で仕切られたベッドルームとダイニングを見る。打ち合わせをすることもあるというダイニングからはベッドルームが見えず、生活感を感じさせない。

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キッチンを挟んでダイニングと反対側が事務所スペース。MDFで制作した中央の収納棚には資料のほかコピー機などを収めている。事務所スペース内に小学生の娘の学習机もある。

ダイニングは打ち合わせ場所にもなるし、カウンターは仕事の合間に2人でさっと昼食をとる時にも重宝している。

特徴的な9枚の建具については、プランを考えていく過程で、バスルームやトイレ、ウォークインクローゼットなど、メインの居住スペース以外の場所を長い壁の一方に集めたことで生まれたという。

「一方に集めたとしても、それぞれの場所に入っていくドアがいくつも並ぶのは避けたくて、フラットな建具を9枚並べる案に至りました。すると横7.2mの大きな面が生まれるので、そこを以前から興味があった襖絵のように扱おうと思ったんです。近くに流れる運河が海へと繋がっていることから、鯨の絵にしようという発想になり、画家の池田早秋さんに原画を依頼。それを拡大してラワン合板にインクジェットプリントしました。1枚ずつフレームと板が分かれるので、将来的には襖を張り替えるように絵柄を変えることもできます」(永澤)

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キッチンに立つ永澤さん。スチールの吊り棚の内側には食器がぎっしり。カウンターの下に業務用の冷蔵庫と冷凍庫を据えている。カウンターをワークトップより1段高くしているのも生活感を消す工夫。

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1歳半の息子を抱く菊嶋さん。好奇心いっぱいに動き回るが、フローリングとタイル敷きの床との間にある段差でも転ばない。「子供って、大人が心配する以上に適応力が高いですね」。

6階の窓から見下ろす風景は深緑色の川と橋、時折のんびりと航行する船。3方向に開いた窓からは光と風が通り抜ける。

「以前の住まいも芝浦の運河沿いの賃貸マンションで、川のそばに暮らす気持ちよさを日々、噛みしめていました。目の前に建物が建たず、夏はクーラーが要らないほど風通しが良かった。住み替える際も、川沿いであることを最優先に物件を探しました」(菊嶋)

「川面の色に合わせてキッチンの壁タイルや、リビングの床タイルを深緑色にしました。ひとつのテーマとして白色の面を使うことはやめようと考えていて、内装仕上げを全て剥がしたコンクリート剥き出しのままにし、要所要所にタイルなどで色を加えています」(永澤)

「川沿い」という最優先条件を諦めることなく、理想の立地を見つけて住み替え、その魅力をインテリアでも表現した2人。フルリノベーションを通じて「仕事、暮らし、子育てをひとつながりのものとして大事にしたい」という希望も叶えている。

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鯨が描かれた9枚の建具の1つを開くとトイレが。玄関脇は下駄箱、キッチン正面はパントリーなど、場所によって奥行きや用途が異なる。トイレの隣はウォークインクローゼットの入り口になっている。

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ダイニング。テーブルは割れのある国産ナラ材の一枚板にかすがいを打って使っている。スチールの脚は自分たちで天板のサイズに合わせて設計した。提灯のような照明はイサムノグチのAKARI。

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キッチンの背後の窓から運河を眺める。建物に目の前を塞がれることのない見晴らしの良さは、川があるからこそ。天候や時間によって変わる川面の風景は、見飽きることがないという。

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運河の色から引用した、リビングの深緑色のタイル。光沢感が部屋をキリリと引き締め、陽の入り方によって影の部分はダークブラウンにも見える。その豊かな表情が気に入っている。

5 Questions!
住まいのデザインと住み替えのコツ

Q1 住まいの個性はどこに出る?

腰を落ち着ける場所をどこにするかで、その部屋の個性が出るように思います。椅子やソファーを置くのか、置かないのか。床の段差も子供にとっては居場所になったりします。どこでご飯を食べ、どこでくつろぐのかを決めることが、個性につながるのではないでしょうか。(菊嶋)

Q2 家が「自分にフィットする居場所」になるために必要だと思うことは?

住み手が積極的にその家にコミットしていくこと。たとえば日々の掃除です。それも誰か1人がやるのではなく、家族みんなが少しずつでもいいので片付けたり、掃除したり、時にはDIYして色を塗り替えたり、絵を掛け替えたりして手を入れること。その積み重ねによって、家が自分たちらしい場所になるのだと思います。(永澤)

Q3 ここだけはこだわったほうがいい、と思うプロ目線の住まいのポイントは?

周りの環境や視覚的な抜けを重視しましょう。内装はいかようにも作れますが、眺望は変えられませんから。空が見える、木々の緑が近いなど、どこか1か所でも外部との関係性を膨らませられると、気持ちのいい空間ができると思います。(菊嶋)

Q4 住み替えるとき、何を一番に考えたほうがいいですか?

まずはどんな暮らしをしたいのかという「夢」や「ロマン」を考えてみてください。大きな旗を立てておくと、細かい部分は後回しにもできるし、家づくりを最後まで完遂することができるように思います。細かく予算を立てることは重要ですが、そこが全ての判断の基準になってしまうと、袋小路に入り込みやすいです。(永澤)

Q5 住み替えてよかったことは?

まずは「川のそばに住む」という希望を叶えられたこと。それから建築士として、この家のリノベーションを通じて職住一体のあり方をいろいろ試すことができているのが良かったです。住み始めて10年経ちますが、今でも帰ってくると「ああ、いい家だな」と思えます。(菊嶋)

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