すむむ。コミュニティ
住まい探しのコミュニティ・プラットホーム。
Photo/Ayumi Yamamoto
Text/Hisashi Ikai
Photo/Ayumi Yamamoto
Text/Hisashi Ikai
友人を招き、食事をしながら言葉を交わす時間を大切にしている相馬英俊さん。3度の住み替えを経て今に至る住まいは、キッチンやリビングに楽しく集い、趣味でもあるうつわコレクションのなかから料理に合ううつわを選び、使い、楽しむための家。相馬さん自らが中心になってプランを組み立てたという。これまでの経験が活かされた、豊かな「食の時間」と共にある住まいについて聞きました。
大手百貨店に入社後、和食器、インテリア、工芸のバイヤー、商品企画やフロアコンセプト設計を担当。部門統括、取締役を経て、2019年からはデザインオフィスnendoでデザインディレクターとして「NENDO SEES KYOTO」に関わる。現在は、会社役員として、経営企画部門、企画設計、新規ビジネスプロデュース事業本部を統括。個人のプロジェクトに、マルニ木工「Manufacture -Allure of Tradition」、リビタ「icco+c」、雑誌『Modern Living』 285 号「工藝のあるラグジュアリーな日常」のディレクションなど。
リビングとの間に扉を設けず、改修で使い勝手良く整えたキッチン。吊り戸棚をはじめシンク周りに調理器具の収納スペースを十分に取り、ワークトップを延長したカウンター内に食洗機とガスオーブンレンジを収めた。
「改修ですべてが真新しくなってしまうと、暮らしの奥行きがどうしても浅く感じてしまう」と相馬さん。ネットオークションで購入したアンティークの水屋箪笥が無駄なすき間がなく収まるように収納壁を設計してもらった。
相馬英俊さんは自分らしく住まうことの上級者。初めて住居を購入したのは、社会人になってすぐのこと。以来、ライフステージの変化に合わせ、これまで3つのマンションに移り住んできたという。現在の住まいは築44年のマンションの上階。大きなルーフバルコニーから都心の街並みが一望できる70㎡ほどの2LDKだ。
「購入時にはすでにフルリノベーションされていましたが、いざ暮らしてみると、床や壁の素材は自分の好みとは少し違うし、キッチンの使い勝手も良くない。気になるところだけを手直しをしよう。そう決意したのは、引っ越してから4年ほど経ったときでした」
コストを考えるとフルリノベーションは難しい。そこで2つの個室はそのまま残し、住みながらキッチン、ダイニング、リビングのみを改修することに。食べることと会話を楽しむこと、そしてうつわ選びの自由度を軸に、相馬さん自らプランを綿密に練っていった。
キッチンからリビングを見通す。大勢を招いた食事会のときは、キッチンカウンターの端がバーコーナーのようになることも。来客と会話しながら、グラスを片手に料理という、豊かな時間が流れる。
京都の古道具屋で購入したヴィンテージキャビネット内。もとは蓄音機とレコード用の収納家具で、カトラリー入れとして使っている。「指物をオリジナルで造作すると高額になる。古い収納家具の転用は、お財布にもやさしい(笑)」。
カウンター下にぴったりと収まるキャスター付き工業用ワゴンは、目黒のアンティークショップで購入した。元は工具入れとして使われていたもの。丈夫でしっかりしているため、大勢が集まるときは調理作業台として使うこともある。
レンジ周りの壁は将来的にはタイル張りへの改修を考えていたが、予算が足りず左官仕上げのモルタルに。繰り返しの調理で残った油はねの跡も、今では味わいがあって良いと思っている。
キッチンの機能改善には特に力を入れた。頻繁に友人を自宅に招いた食事会を開くことから、キッチンとダイニングの行き来がしやすいセミオープンなスタイルに変更。さらに膨大な量のうつわを整理&収納し、手際よく取り出せるようにと、大容量で耐荷重性の高い引き出し型の収納を設置した。
「食事をつくりながら『この料理だったら、漆器にする? ガラス皿にする?』とアイデアを交換しながら、友達と一緒にうつわを選ぶのが楽しいんです。そうなると、単に美しくしまえるだけでなく、一気に俯瞰して見渡せ、ワンアクションで取り出せる引き出しが一番良いなと」
ダイニングからアクセスしやすい位置に、双方向からアクセス可能な引き出し式収納壁も造作。これまでの経験を活かしたオリジナルのデザインで、引き出しの深さや奥行きを相馬さんが細かく決め、設計者が図面へと落としていったという。また、調理の作業性を確保しつつ、来客が気軽にその様子を眺めたり、会話に参加しやすいよう、キッチンのカウンターをダイニング近くまで伸ばし、境なく繋げている。
玄関からリビングに通じる廊下の壁一面に設けたうつわ専用の収納壁。倉庫というよりも、ひとつの部屋のような佇まいで空間と一体化させている。
うつわ専用の収納壁は、用途や種類ごとに引き出しの高さを細かく設計し、大容量を確保。皿、鉢、椀の用途別や、漆器、ガラスの素材別、ディナープレートなどに分類されている。
有名無名にこだわらず、「直感でうつわを選んでいる」という相馬さん。写真手前は、瀬戸の作家、キムホノの湯呑み。中央の小付と左奥の染付皿は友人の実家から譲り受けたもの。奥の椿皿は岩手の浄法寺塗。
日本料理の古書からイタリア、韓国、ベトナムと世界各地の料理本や雑誌が並ぶリビングの書棚。本の手前に置いている小皿や動物のオブジェは、大阪のアーティスト、タカノミヤの作品。
新しくしたカウンターやキッチン背面の棚には、調理器具がずらりと並び、そのあいだにアンティークのスチールワゴンや昔ながらの水屋箪笥がぴったりと収まっている。機能性、実用性をしっかりと確保しながらも、自然な感覚で暮らしの情景を整えていく相馬さんの柔軟かつ繊細な感覚が光る。
3年前には、漁港のある神奈川県の小さな町に築60年の戸建てを購入し、セカンドハウスとしてリノベーション。週末には、都会の雑踏を離れ、その港町でのんびりと過ごしながら、英気を養う。そんな多忙な会社員生活にもいずれは区切りの時が来るだろう。人生の岐路を前に、相馬さんは次なるステージをぼんやりと思い描き始めている。
「仕事の仕方が変われば、暮らし方にも自然と変化が訪れるもの。いずれはこの家を離れ、地方を拠点にするかもしれないし、慣れ親しんだ東京に、もっと小さな住まいを持つのもいい。東京なら下町、神保町や小川町あたりに住んでみるのもいいかな」
どこに拠点を置くとしても、大事なのは「豊かな食と人とがつながる時間」。料理とうつわを楽しみ、テーブルに集う時間が、相馬さんの暮らしの中心であることに変わりはないのだろう。
改修で天井を剥がしたときに現れた軽量鉄骨と木製角材の下地材をそのまま残し、アートやドライフラワー、ランプシェードなどを吊るしている。常識にとらわれない柔軟な発想と自由な感覚が見てとれる。
キッチンから続く壁沿いにルーフバルコニーへと出られる窓がある。50㎡ほどの広さを持つ開放的なルーフバルコニーは、相馬さんのお気に入りの場所。新宿駅周辺の高層ビル群を一望できる。