すむむ。コミュニティ
住まい探しのコミュニティ・プラットホーム。
建築家であり、写真家、ワイン醸造家という肩書きも持つ干田正浩さん。近作は、東京都目黒区の集合住宅〈盤桓〉。フラットやメゾネットなど8戸が複雑に組み合わされた〈盤桓〉の1階に居住するオーナー住居を見学しながら、干田さんの住まいに対する考え方を伺いました。そこには光と風を室内に取り込み、代々受け継がれた庭の景色を堪能するための工夫がありました。
1983年東京都生まれ。2006年より写真家として活動。アフリカやアジアの集落で撮影やボランティアをしながら、建築が社会変革に寄与することに気づく。09年、工学院大学大学院工学研究科建築学専攻修了。国内外の建築設計事務所勤務を経て16年、干田正浩建築設計事務所(現MHAA)設立。内装設計の代表作に〈八重洲 鰻 はし本〉〈COFFEE COUNTY Tokyo〉など。
2025年2月に竣工した、閑静な住宅街に溶け込む3階建ての低層マンション。メゾネットタイプとフラットタイプの部屋、計8戸がパズルのように組み合わさっているこの集合住宅の1階、約70㎡・1LDKフラットタイプのオーナー宅を見せてもらった。
玄関を入ると正面にオープンキッチン。左へ進むとダイニングからリビングへとひと続きの空間。その先には床から天井までのはめ殺しの窓があり、建て替え前の日本家屋に付随していた庭が広がっている。紅葉真っ盛りのもみじが一面に散り敷いて、都心とは思えないしっとりと趣のある眺めだ。
「元の庭にあった木や石造物はできるだけ残したいというオーナーの要望を受けて移植できるものは移植し、灯籠や敷石も既存のものを再活用しました」(干田さん・以下同)
室内に梁を出さない「逆梁構造」によりフラットで美しい天井面を確保。その清々しさを邪魔しないよう、床から天井までフルハイトのドアを取り付けた。天井高は2600ミリ、ドアの向こうは寝室。
オーナーは単身住まいだが、キッチンは十分な広さ。3口のガスコンロとシンクの間に作業のスペースを設けた。水栓の後ろにもゆとりのある石の天板にすることで、熱い鍋をそのまま置いたり、テーブルから食器を下げたりするのにも好都合。
フルハイトのはめ殺し窓は庭を眺めるためのピクチャーウィンドウ。窓の外に斜めに角度をつけて立つ厚さ80ミリのコンクリート壁=ラダーウォールが風を左隅のジャロジー窓に引き込む。
窓際にはライティングビューローを置いて、書斎がわりに。夕暮れ間近、庭の木々を通して差し込む光が美しい。
この建物の特徴が、道路側からも目に入る軒下のラダーウォールだ。各戸のメインの窓の外側に3枚のコンクリート壁が間隔をあけて立っている。
「この部屋の南向きの窓に対して斜めに立つこのラダーウォールが直射日光を遮りつつ、お隣や道路側からの視線を避ける役割を果たし、なおかつ南北に流れる風をはめ殺し窓の脇に設けたジャロジー窓に引き入れる設計になっています。ジャロジーのハンドルを回すことでルーバーが開閉し、室内に取り込む風の量をコントロールします」
室内に目を戻すと、床には集合住宅では珍しいチークの無垢材が使われている。造り付けの収納や建具も全て干田さんが設計した。
「毎日素肌に触れるものには質感のいい素材を使いたいと思っています。床に使ったチークは、“づくり”と呼ばれる木目を強調する加工をした無垢材なので足触りがいいです。同じようにバスルームはタイル張り、キッチンカウンターは石の天板にしました」
建築家の干田正浩さん。オーナーと好みが似ているということで設計を依頼され、初めて集合住宅を手がけた。8戸すべて間取りも規模も異なるので、一つの建物に収めるのが難しかったという。
リビングのソファーからの眺め。集合住宅につけられた「」という名前には「その場から離れがたい」という意味があり、その表現どおり、美しい庭の存在こそがこの集合住宅のいちばんの魅力になっている。
干田さんは建築家でありながら醸造家の一面も持っており、ワインや発酵食品も自分で作ってしまう本格派。食べることも料理することも好きだから、キッチンの設計にはこだわりがあると言う。
「衣食住という言葉がある通り、食べることは住まいと切り離せない重要なもの。だからこそ料理しながらダイニングにいる人と会話ができるような、キッチンを中心とした空間づくりを意識しています。豪華な内装のデザイナーズマンションでも、申し訳程度にあつらえた狭いキッチンをたまに見ますが、たとえ単身者用住戸であってもそれなりの広さは必要だと思います。また使い勝手も重要です。このキッチンのシンクの下は全て収納になっており、カップボードを置く必要がないぐらい充実しています」
そもそもオーナーと干田さんは飲み屋で知り合った仲。ナチュラルワインや食べ物を通して互いの好みが似通っていることから、実家の建て替えプロジェクトを依頼されたのがことの始まりだ。100歳で亡くなるまでこの地に住んだオーナーの祖父が愛した庭。集合住宅に建て替えてもなお昔日の面影を感じられる、光と風が通り抜ける部屋なのだ。
茶色の外壁は一見、木の板のように見えるが、焼いて木目を浮き立たせた木の型枠にコンクリートを流し込んで後から塗装したもの。植栽が育っていけば、建物全体がさらにオーガニックな雰囲気になるだろう。
玄関ホールと階段。アールをつけた左官仕上げの壁がひと手間かけた高級感を醸し出す。吹き抜けのトップライトで自然光を取り込み、通常暗くなりがちな集合住宅の共用部を明るく開放感のあるものにしている。
バーティカルブラインドを閉めたところ。ブラインドの角度を調整でき、なおかつメッシュ素材なので、ジャロジー窓から入る風を通す。
庭の木漏れ日が降り注ぐリビング。チークの無垢材の床は、合板のフローリングとは比べ物にならないほど肌触りがいい。素足に直接触れる機会が多い床暖房ならなおのこと。また調湿効果にも優れている。
この家に関して言えば、梁が出っぱらない「逆梁」にして、天井面をすっきりとフラットにしていることです。室内から庭の景色までが一つにつながるような空間を心がけました。それに合わせて建具もフルハイトで設計しています。また、毎日無意識に目や手に触れる部分をできるだけ天然素材で作り、心地よいものにするようにしました。
生活の中でどんな瞬間が自分にとっていちばん心地いいか、自分自身を振り返ってみることが大事だと思います。たとえば窓から木々を眺めることが好きなのであれば、植栽の見え方や風景を重視すること。
外からの光の入り方は重要ですね。自然光はカーテンや日除けで遮ることはできますが、あとから加えることは難しいので慎重に。周りの住宅との距離感や、朝、昼、夕方など異なる時間帯でどんな方向からどれぐらい光が室内に入るのか、見定めることが大事です。
自分がこの先どういう生き方をしたいのか、ライフスタイルを見直すことが肝心です。自然に触れる生活を欲しているのか、駅に近く都会的にアクティブに過ごす毎日を求めているのか。生活と仕事のバランスや優先順位を見極めるのも大事です。それによっておのずと選択肢が絞られてくると思います。
以前はマンションの3階に住んでいましたが、同じ街の一軒家に引っ越しました。戸建ての家はマンションの部屋に比べると彩光や通風の面で劣りますが、逆に言えば地面に近くなったので、雨上がりの土の香りや緑の息吹を感じられる生活になりました。それも楽しいものだなと感じています。